京アニの事件で奪われた、すべてのもの
痛ましい事件を受けて、体がちぎれてしまいそうだ。苦しい。ニュースもネットも見たくない。けれど見なくてはいけない。
葛藤がせめぎ合う中、ふと「華氏451」のセリフを思い出した。
『彼らが関わってた活動が全てストップしてしまった。 彼らは世界を形作っていた。
世界は彼らが亡くなった晩に1000万もの素晴らしい行いを失ってしまったんだよ』
「free!」「けいおん!」など素晴らしい作品を残してきた京都アニメーション。
通常「アニメ化」と聞くと、喜びと同時に不安が混じる。声優や構成、そして作画への不安だ。
しかし、制作会社が「京アニ」と言われると、手放しで喜ぶことができた。京アニが描く風景、人物、建築すべてが、アニメに彩りを与えてくれた。アニメは、動く絵があってこそ、初めてアニメになりうるんだと改めて認識させてくれた。
その功績を、一瞬で、燃やしてしまった
「なぜ」という言葉が止まらなかった。
犯人は「パクリやがって」「死ね」と叫んでいたそうだ。何かしらの恨みがあったのだろう。
しかし炎に焼かれる彼らが、何の罪を犯したのだろうか。
あれだけの作品を残す、技術と才能を持った彼らに、何の罪があったのだろう。
お前の口は何のためにあるんだ
お前の理性は何のためにあるんだ
お前の心は何のためにあるんだ
いくらでも訴える方法はあったはずだ。それらを全てすっ飛ばして、感情のままにガソリンをまくなんて、理解の範疇を超えすぎている。
そして心から怯えた。
テロ行為に対して、人間はあまりに無力だ。
理解できない奴らに、理不尽に殺される可能性が、そこらへんに転がっている。
今回奪われたのは、命だけじゃない。
『境界の彼方』という作品がある。
そこで登場する建物は、ある喫茶店をモチーフにしている。友人の知り合いの店で、話を聞くところでは、アニメ好きがよく訪れているらしい。
お客さん同士が仲良くなったり、アニメをきっかけに常連になったり、一つのアニメがたくさんの御縁を繋ぐのだと感心した記憶がある。
今回のテロ行為は、そういった縁も焼き尽くしたといってもいい。
おそらく、あの喫茶店は悲しみに包まれることだろう。
一つのアニメで繋がった温かい縁が、深い悲しみに変わってしまうだろう。
『彼らが関わってた活動が全てストップしてしまった。 彼らは世界を形作っていた。
世界は彼らが亡くなった晩に1000万もの素晴らしい行いを失ってしまったんだよ』
世界の人々を魅了した作品が、一晩にして奪われてしまった。
その作品に救われた人が、何人もいたはずなのに。救われる機会さえも奪われてしまった。
残された人々はどうしたらいいのだろう。
このようなテロ行為をなくすには、どうしたらいいのだろう。
私たちは考えなくてはいけない、歩みを止めてはいけない。無力だと分かっていても、テロ行為に屈してはいけないのだ。
亡くなられた方の、ご冥福をお祈りいたします。